防災まちづくり学習支援プログラム〜10年間の取り組み〜
1.取り組みの契機は阪神・淡路大震災
 都市計画や再開発に関係する専門家による学校現場への防災まちづくり学習支援の取り組みがスタートしたのは、平成8年度である。その背景にあったのは国による都市防災対策の見直しの動きであり、それは平成7年1月の阪神・淡路大震災が契機となっていた。それまでの都市防災対策といえば、大規模公園、幹線道路の整備や沿道建築物の不燃化促進等、都市の防災構造化を進めるためのハード施策のことであり、そこでの主役は国や地方公共団体ということになっていた。
 しかし、阪神・淡路大震災で死傷者を多数出すなど、一番問題となったのは脆弱な密集市街地の存在であった。このような密集市街地を災害に強い地域に変えてゆくためには、ハード・ソフトを含め、地域に住んでいる住民の主体的な取り組みが不可欠となる。新しい都市防災対策は「防災まちづくり」へと大きくシフトせざるを得なかった。
 こうした中、当時の建設省は、小学生・中学生の学校教育の中に「防災まちづくり」をテーマとして位置づけることを目指して文部省に働きかけを行ったが、当時は過密カリキュラムへの反省からゆとり教育へ移行する時期であり、国の方針として新しい分野を増やすのは不可能であった。そこで方針を転換して、文部省が進めていた学校施設を地域防災の拠点とするモデルプロジェクトに関連させてボトムアップで普及することとし、地方公共団体の都市防災担当部局の集まりである都市防災推進協議会と文部科学省の協力を得て防災まちづくり学習支援の取り組みをはじめることとなった。
 しかし学校教育の場でこのテーマを取り上げるには、さまざまな場面で教育の専門家である教師をサポートするまちづくりの専門家が必要になる。そこで白羽の矢の立ったのが再開発の専門家の集まりである(社)再開発コーディネーター協会(以下、当協会)であった。
 なお、その後カリキュラムに「総合的学習」が取り入れられたことから、これを主たるフィールドに想定して取り組みを進めることとなり今に至っている。
2. 当協会の取り組みと「防災まちづくり学習支援協議会」への展開
 当協会で建設省の呼びかけに応えてこのテーマを取り組むこととしたのは平成9年からである。当協会は、阪神・淡路大震災復興にあたって、現地に震災対策本部を設置し、東京在住者を含め多数の会員を派遣するなど、復興支援に大きな力を入れていた。一方、従来から密集市街地での再開発等を進める上で、これまで以上に住民の意識の底上げが大切であり、子供のときからの教育にまちづくりを取り入れる事の重要性は会員皆によく理解されていた。
 また、このころ、英米でまちづくりの専門家やその団体が標準のカリキュラムや教材の作成、授業への協力など次代を担う子供たちの教育という最も社会貢献と高い分野に無償協力することにより、社会的な尊敬を高めている事情がわが国に紹介され、再開発コーディネーターという職域の社会的な認知度を高める観点からも是非取り組むべしということになった。
 この時期、本協会内では、震災等の初動期の専門家によるボランティア活動を支えるために、初代会長故高山英華先生の呼びかけで会員等からカンパを集め、協会内に復興支援のための基金(高山英華基金)が設立されていたことから、その平常時の運用益使途としてこの学習支援が最もふさわしいと判断されたという事情も幸いしている。
 その後、当協会会員の再開発コーディネーターだけでなく、建築や都市計画などさまざまな専門家に呼びかけ幅広く運動を推進することが望ましいという第二代会長伊藤滋先生の考えもあり、平成15年に(社)日本建築家協会及びNPO日本都市計画家協会の参加を得て「防災まちづくり学習支援協議会」が設立され、今日に至っている。
図1 防災まちづくり学習の分野と方法(平成10年報告書から)
3. 学習支援プログラムの全体スキーム
 この「防災まちづくり学習支援協議会」でとりくんでいる防災まちづくり学習支援プログラムの全体像は、以下の通りである。

(1)基本目標 ・学校教育(小・中・高等学校等)の場で、“防災→災害に強いまちづくり”をテーマとする学習を実現・普及し、市民参加のまちづくりの基礎をつくること
・学校での学習が実施される際に、まちづくりの専門家の社会貢献活動として、専門知識・経験を生かした支援が行われるよう環境整備をすること
(2)推進主体  当初は(社)再開発コーディネーター協会の高山英華基金事業として行われていたが、平成15年から(社)日本建築家協会及びNPO法人日本都市計画家協会が加わり、防災まちづくり学習支援協議会が設立され、以後この協議会が実施主体となっている。
(3)学習教材や学校
 への情報提供
学校現場における体験的学習プログラムに関する事例提供や、相談を行う。また、ビデオ・ワークシートなど防災まちづくり学習役立つ教材を提供している。
(4)専門家の登録・研修  趣旨に賛同し、支援活動に参加いただける専門家の登録を行うとともに、学校教育という異なったフィールドでの活動に必要な知識・ノウハウ等を身に付けるための研修等を行っている。
(5)モデル事業の実施  全国の公私立学校(小中高)の学校・学年・学級を対象に、公募により毎年5〜10箇所程度をモデル事業に選定し、専門家の派遣、教材等の提供・貸出、実費支援等を行っている。
4. プログラムの開発等の経過
 この9年間の取り組みの概略は以下のとおりである。

■平成8年  学習支援に向けての建設省の内部検討(文部省との協議、地方自治体との調整等)
■平成9〜10年  当協会において、委員会を設置し、基本的方針、方法等をとりまとめた。
■平成11〜12年  モデル学校での実践を開始
■平成13〜14年  実践校を拡大、併せて学習コンクールを実施。この結果をもとに基本的教材を作成。
■平成15年  防災まちづくり学習支援協議会の設立。「こどもまちづくり学習アドバイザー」登録制度の開始とアドバイザー会議開催。
 引き続きモデル学校での実践。学校に呼びかけセミナー開催。
■平成16年  引き続きモデル学校での実践及び東京都教育庁「都市未来塾」への協力。防災まちづくり教材として、戦前版教育紙芝居『稲村の火』を復刻。
5.これまでの主な成果

◆学習方法の集成及び開発
 平成9年度〜平成10年度に「防災まちづくり教育推進方策検討委員会」(委員長:東京学芸大学小澤紀美子教授)を設置し、学校現場での取り組みに当たっての方針や方法など基本的報告書を取りまとめた。検討項目は以下の通り。
 ・大震災の教訓とまちづくり市民の重要性
 ・防災とまちづくり教育の現状と課題
 ・防災まちづくり教育の方向性
 ・新しいまちづくり教育の方法(図1参照)

図2 防災まちづくり学習パンフレット◆指導パンフ及び事例集の発行
 モデル実践とフィードバックを経て、学習指導者用パンフレット「安全安心防災まちづくり学習のススメ」を作成、区市町村の教育委員会等に広く配布した(図2参照)。
 平成14年には、モデル実践に並行して、全国によびかけ「防災まちづくり学習コンクール」を実施した。これらを合わせて、基本的な教材として「防災まちづくり学習事例集」等を作成した。
平成16年にはこれをもとに教師側に呼びかけ、「地域教材を生かした授業づくりセミナー」を開催した。

◆「子どもまちづくり学習アドバイザー」の登録、研修
図3 アドバイザー研修風景 第一線で活躍中の建築家、都市プランナー、再開発コーディネーターに呼びかけ、専門家ボランティアとして登録した。現在、建築家26名、都市プランナー13名、再開発コーディネーター等23名 計62名が登録されている。
 平成15年にこうした専門家の研修のため、学校教員等に講師をお願いし、「こどもまちづくり学習アドバイザー会議」を開催した。
 モデル学校から専門家派遣の依頼があった場合、登録したリストの中から学習内容や学校所在地をもとに適切な専門家を選定し派遣する。派遣された専門家は教師との連携のもとで、授業の講師、学習アシスタント、相談相手などさまざまな業務を行うこととなる。

図4 高校生の学習風景(東京未来塾平成16年)◆モデル事業の実施
  平成11〜16年において専門家が派遣されたのは20現場(小学校11、中学校7、高校2)で、関与した専門家は延べ36名(事務局職員を除く)である。学習内容は、防災学習〜総合的な地域学習まで様々である。
 なお、専門家派遣に至らないが、ビデオなど教材の貸し出し、学習内容など小中学校へのアドバイス、自治会からの相談などの支援も同様に行っている。

◆戦前版教育紙芝居「稲むらの火」復刻と配布
図5 戦前教育紙芝居「稲むらの火」復刻に伴う解説書(平成17年3月) 平成16年12月に北スマトラ大津波が発生し津波対策の重要性が国際的にも認識された。わが国では、戦前の小学国語教科書に掲載された「稲むらの火」という話があり、これにより、全国の子ども達に地震津波の啓発がなされた。防災教育のルーツとして高名である。
  この当時、学校現場で教科書に並行して、教育紙芝居が用いられていたが、今日では実物は希少なものとなっていた。関係者の協力や寄付を得て、戦前版教育紙芝居「稲むらの火」を復刻し、解説書を付して津波の危険のある全国の小中学校などに広く配布している。(配布終了

6. 今後に向けて
 防災まちづくりは、地域の人々が主体性が重要であり、本協議会においても、学習する側の自発的な申し出に即して学習支援を行ってきた。まち歩き・地図づくり・成果発表会など定番の学習方法もできつつある。しかし、それらのツールをふまえながらも、先生方と相談しながらプログラムを作成し、実践を支援するという、学校主体の進め方を行っている。
 課題は様々ある。特に、このような専門家による支援をより多くの学校に知っていただくこと、さらに先生方に未経験なことに取り組む抵抗感を如何に積極的に転換するか、ということが大きい課題である。
 防災の観点から地域を知り、安全な環境づくりを考えるという学習は、多くの方に理解しやすく、楽しい実践となる。是非、あなたの関係する学校や地域で取り組んでいただきたい。また、その実践を地元の専門家はよろこんで支援するであろう。ご一報いただければ幸いである。